例えば、死体焼却という様な世の常ならぬ想像に、それを裏書する火葬場の匂いがちゃんと用意されていたり、犯人が見つかったかと思うと、その時には彼はすでに死骸になっていたり、トランクの男の(少くともトランクそのものの)行方が絶対に分らなくなったり、考えれば考えるほど、異様な感じがします。
もっと手近な事柄をいえば、今私の前に腰かけている河野自身の古ぼけた手提鞄で、その中には恐らく数冊の古本と、絵の道具と、幾枚かの着類が入れてあるに過ぎないその鞄を、彼はなぜなればあんなに大切相にしているのでしょう。
一寸開くたび毎に、一々錠前を卸して、その鍵をポケットの中へ忍ばせるのでしょう。