北島は猶取調中で罪は確定しないけれど、三千子変死当夜のアリバイ(現場に居なかった証拠)を立て得ないこと、変名で木賃宿に宿泊していたこと、その他申立ての曖昧な点が多々あって、若し外に有力な嫌疑者の現れない時は、前科者の彼こそ、さしずめ最も疑うべき人物に相違なかった。
北島をあげると同時に、警察は第二の嫌疑者として小間使の小松の行方を捜索した。
情人の蕗屋が大阪の実家に帰っているのだから、外に身寄りとてもない小松は、きっと彼をたよって行ったに相違ないという見込みで、その地の警察に取調べを依頼した上、こちらからも態々一人の刑事が急行した。