神谷はまたしてもカフェ・アフロディテの片隅のテーブルに腰をすえて、ウィスキーをチビチビとなめながら、ウエートレスの弘子とさし向かいで、もう三、四時間ほども、意味もない会話を取りかわしていた。
「きょうは変だね、まだ十一時だのに、僕のほかには一人もお客さんがいないじゃないか」
ふだんから、なんとなく陰気な、客の少ない、その代りにはゆっくりと落ちつきのあるカフェであったが、今晩は殊に、まるで空き家にでも坐っている感じで、薄暗い電燈といい、シーンと静まり返った様子といい、なんだかゾッと怖くなるほどであった。