すると、ちょうどその時、入口のボーイが客を迎える声がして、コツコツと靴の音をさせながら、一人の男がはいってきて、一ばん隅っこのシュロの鉢植えの蔭のボックスへ、人眼をさけるように腰をおろした。
神谷はその男が歩いているあいだに、風采や容貌を見てとることができたが、彼はまっ黒な背広を着た、ひどく痩せ型の、足の長い男で、その顔はトルコ人みたいにドス黒く、頬が痩せて鼻が高く、びっくりするほど大きな、何かの動物を連想させるような両眼が、普通の人よりはずっと鼻柱に近くせまって、ギラギラと光っていた。
年配は三十歳ほどに見えた。