人通りのまったく途絶えた、夜ふけの裏町には、氷のような黒い風が、悲しげな音を立てて吹きすさんでいた。
神谷は突然沙漠の中へほうり出されたような淋しい気持になって、帽子をおさえながら、タクシーを拾うために、近くの大通りへと歩いて行ったが、ヒョイと、その町角を曲がると、大通りの青白い街燈の下に、さいぜんの恩田が立っているのが見えた。
カフェでは、丸めて脇の下にかかえていたので、それとわからなかったが、いま見ると、彼は背広の上には不似合いな、黒のインバネス・コートを着て、巨大な夜の怪鳥の姿で立っているのだ。