そこで、彼はその翌日、午後から会社を休んで、心覚えの武蔵野の森の中へ、怪人物の住所を確かめに出かけることにした。
幾度も迷った末、やっと、それらしい森を見つけて、車を降りると、細い枝道を、気味わるい草むらを踏み分けて、目ざす森へと歩いて行った。
空は一面にどんより曇って、風もなく、寒さはそれほどでもなかったけれど、ソヨとも動かぬ草の葉、森の梢が、何かしらこの世のものならぬ感じで、思い出すまいとしても、先夜の恐ろしかった記憶がよみがえって、ともすれば逃げ出したい衝動にかられるのを、恋人のためなればこそ、やっとこらえて、ついに草むらを通り越し、薄暗い森の中へと踏み込んでしまった。