その夜、神谷芳雄は、大都劇場を見物たちが残らず立ち去ったあと、警官の捜索が終るまで居残って、手に汗を握るようにして、その結果を待っていたが、人間豹恩田はもちろん、江川蘭子までが、どこから逃げ去ったのか、影も形もないとわかると、もうがっかりしてしまって、夢遊病者みたいな恰好で、フラフラと劇場を出た。
失望に眼もくらんで、どこをどう歩いたとも知らず、それでも無事にわが家にたどりつくと、出迎えた女中に物もいわず、家人に挨拶もせず、離れ座敷の居間にはいって、そこに取ってあった床の中へ、ころがりこんでしまった。
ああ、なんということだ。