人間豹は、鼠をもてあそぶ猫のように、急に襲撃するでもなく、タイルの洗い場にうずくまったまま、ずうっと首を低くして、ギラギラ光る青い眼で、いつまでもいつまでも、さも楽しげに、湯の中の餌食を睨んでいた。
同じ屋敷のそとでは、蘭子の恋人神谷芳雄が、ガラスのかけらを植えつけたコンクリート塀のまわりをグルグルと廻り歩いていた。
彼は蘭子の女中奉公を、別の自動車で見送って、彼女が邸内にはいるのを見届けてからも、なんとなく気掛りなものだから、三十分あまりも、屋敷の前にたたずんだり、裏手に廻ったり、どこか隙見でもする箇所はないかとさがしたり、そこを立ち去りかねていたが、いつまでそんなことをしていても仕方がないと諦めて、通りすがりの自動車を呼びとめた。