「人間豹」の餌食と狙われている当の文代さんが、あいつの巣窟ともいうべき場所へ、素顔のままノコノコはいりこむなんて考えられないことだ。
野次馬にまじって当てもなくさまよい歩いているかと見える二人の男女、男は薄よごれた職工風の菜っぱ服に、器械油で黒く染まった鳥打帽子をまぶかにかぶり、板裏草履という扮装、大きなロイド目がねを掛けて、黒々として立派な口ひげをたくわえているのだが、その顔じゅうが器械油で手習い小僧みたいに汚れている。
女は髪を櫛巻きにして、洗いざらした手拭の頬被り、紺飛白の半纏のようなものを着て、白い湯文字がまる出しだ。