結局、綾子は、ゆうべおそくか、けさあけがたに、宿の者の眼を盗んで、草履を持ち出し、裏口からでも立ち去ったものとしか考えられなかった。
三島刑事は、最後の土壇場で、まんまと裏をかかれた口惜しさに、やっきとなって付近を調べまわったが、綾子らしい姿を見かけた者は一人もなかった。
足跡もなければ、遺留品もなく、付近の人にも見られていないとあっては、捜査の手段も尽きたのであるが、なお念のために品川駅の改札係などに、綾子の風体を告げて、その朝の列車に乗り込まなかったかと訊ねまわってみたが、誰一人そういう娘を記憶にとどめているものはなかった。