しかし、綾子さんを隠してしまっても、相手の荒川が生きていては、あの青年の口から秘密がばれないとも限らないので、先ず、荒川をおびき寄せて殺害した上、綾子さんを地下室へ監禁しておいて、綾子さんの替玉を作り、変装用の古着を買わせたり、品川駅前の安宿に泊まらせたり、いろいろな証拠を残して、品川駅前から汽車に乗って遠くへ逃亡したように見せかけたのです。
一方庭に残された荒川の死体は、この事件の怪奇性を一そう深める役にも立ったわけです。
まったく見知らぬ男が夜のあいだに死体になって邸内に倒れているなんて、実に申し分のない煽情的な光景ですからね」