怪奇を探り、犯罪を利用するゆすりを本業とする影男が、世の中の裏の裏を探検した体験により、佐川春泥という筆名で犯罪小説を発表し、大いに人気を得ていることはすでにしるした。
その原稿依頼状や原稿料の送付は、そのつど、東京都内のちがった郵便局の留め置きとして、使いにこれを受けとらせ、佐川春泥の正体をかたく秘密にしていたこと、この奇怪なる秘密性のためにかれの人気がいっそう高まりつつあることも前述した。
影男は、あるいは速水荘吉、あるいは鮎沢賢一郎、あるいは綿貫清二、等々の人物として、そのときどきの使いのものから、この局留め郵便物を受け取っていたが、その中に、近ごろは毎回のように、ある一人物からの奇妙な手紙がまじっていた。