その原稿依頼状や原稿料の送付は、そのつど、東京都内のちがった郵便局の留め置きとして、使いにこれを受けとらせ、佐川春泥の正体をかたく秘密にしていたこと、この奇怪なる秘密性のためにかれの人気がいっそう高まりつつあることも前述した。
影男は、あるいは速水荘吉、あるいは鮎沢賢一郎、あるいは綿貫清二、等々の人物として、そのときどきの使いのものから、この局留め郵便物を受け取っていたが、その中に、近ごろは毎回のように、ある一人物からの奇妙な手紙がまじっていた。
その文面はいつも大同小異で、こちらが返事を出すまでは執拗に投函をつづける決意をかためているように見えた。