吉田の母親はそれを見つけて硝子障子のところへ出て行きながら、そんな独り言のような吉田に聞かすようなことを言うのだったが、癇癪を起こすのに慣れ続けた吉田は、「勝手にしろ」というような気持でわざと黙り続けているのだった。
しかし吉田がそう思って黙っているというのは吉田にしてみればいい方で、もしこれが気持のよくないときだったら自分のその沈黙が苦しくなって、(いったいそんなことを聞くような聞かないようなことを言って自分がそれを眺めることができると思っているのか)というようなことから始まって、母親が自分のそんな意志を否定すれば、(いくらそんなことを言ってもぼんやり自分がそう思って言ったということに自分が気がつかないだけの話で、いつもそんなぼんやりしたことを言ったりしたりするから無理にでも自分が鏡と望遠鏡とを持ってそれを眺めなければならないような義務を感じたりして苦しくなるのじゃないか)というふうに母親を攻めたてていくのだったが、吉田は自分の気持がそういう朝でさっぱりしているので、黙ってその声をきいていることができるのだった。
すると母親は吉田がそんなことを考えているということには気がつかずにまたこんなことを言うのだった。