文豪用例帳

作家別 名言・名文

梶井基次郎の名言・名文

梶井基次郎は、三十一年の短い生涯に二十編ほどの短編を残しただけの作家である。大阪に生まれ、旧制第三高等学校から東京帝国大学英文科に進んだ。学生のころから肺を病み、その病と隣り合わせの感覚が作品の底に流れている。

代表作『檸檬』は、憂鬱を抱えた「私」が買った一つの檸檬を、丸善に積んだ画集の上へそっと置いて立ち去る、それだけの話である。それでも、冷たい果実の重さや色が沈んだ心をわずかに持ち上げる瞬間を、これほど精密に書いた文章は少ない。一九三二年、結核のため没した。

梶井基次郎 1901–1932
感覚的で緻密な描写を特徴とする小説家。病と向き合う中で生まれた短編が多い。代表作『檸檬』で知られる。31歳で病没。

名言・名文

われわれによつて自由にされた魂は死を征服して、われわれの許に歸つて一緒に生きるといふのである。梶井基次郎『「親近」と「拒絶」』 鋭い悲哀を和らげ、ほかほかと心を怡します快感は、同時に重っ苦しい不快感である。梶井基次郎『冬の蠅』 実際こんな生活では誰でもがみずから絶望し、みずから死ななければならないのだろう。梶井基次郎『交尾』 それは一寸も心を苦しめるような喧嘩じゃない。梶井基次郎『小さき良心』 自分のどこかに醜いところが少しでもあれば我慢出来ないというのです。梶井基次郎『橡《とち》の花』 書かれてゐるのは優れた個人でもない、ただあり來りの人間である。梶井基次郎『『新潮』十月新人號小説評』 それにしても心というやつはなんという不可思議なやつだろう。梶井基次郎『檸檬』 えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた。焦躁と言おうか、嫌悪と言おうか──梶井基次郎『檸檬』 妄想は自分を弱くみじめにした。愚にもつかないことで本当に弱くみじめになってゆく。梶井基次郎『泥濘』