私は、人氣のない河岸の、眞暗なサツポロビイル會牡の横を通り過ぎながら、ふと――さつき私の受取つた無名の手紙は實は夜からの呼出し状ではなかつたのか、そしてただその口實に宿屋の名前なんか使つてはゐるが、もともとそんな宿屋なんぞは何處にもありはしないのではないか、とそんなことも思はないではなかつた。
……さうして、私は駒形の附近を散々に探しまはつた揚句、どうしてもさういふ名前を持つた宿屋を見つけることが出來なかつたとき、私は危ふくそれを信じようとさへしかかつた。
その最後の瞬間になつて、私は漸く、二つの大きな商店にはさまれてゐる、一つのきはめて小さな宿屋を――その門の上の「すみれや」といふ小さな看板さへなかつたならば、ほとんど普通の住宅と區別できないやうな一つの宿屋を、見つけることが出來た。