それにしても、あいつはよくこんな山の中に一年近くも辛抱して居られたなあ……と、私は三四日前、何處か一週間ばかり旅行するのにいい處は無いかしらと搜してゐた時、この半島の旅を私に教へてくれた一人の友人のことを思ひ出したのである。
……ふん、分つたぞ。
あいつはこの邊の景色のいいことだの、温泉のいいことだのを散々私に説いた擧句、どこそこの宿屋には可愛いい娘が居るなどと言ひ出して、しきりに私を煽動するから、――それぢや其處へ紹介状を書いてくれと言つたら、そんなものなんかと笑つて誤魔化してしまつたばかりか、仕舞ひには私が彼を知つてゐる事も何んだかその宿の者に言つて貰ひたくなささうな口吻だつたつけ。