あいつはこの邊の景色のいいことだの、温泉のいいことだのを散々私に説いた擧句、どこそこの宿屋には可愛いい娘が居るなどと言ひ出して、しきりに私を煽動するから、――それぢや其處へ紹介状を書いてくれと言つたら、そんなものなんかと笑つて誤魔化してしまつたばかりか、仕舞ひには私が彼を知つてゐる事も何んだかその宿の者に言つて貰ひたくなささうな口吻だつたつけ。
……今、その理由が分つた。
大かた、金の事ではよく人を手こずらせる彼奴のことだから、そこの宿賃でも溜めてしまつて仕樣ことなしに一年近くもそんな山の中にくすぶつて居たのにちがひない。