が、さすがにそれらの上にかかつてゐた亡き人の息ぶきももう薄れてきてゐるやうなのは否めなかつた。
さうしてながいこと使用せられないので、いかにも氣の拔けたやうになつてしまつてゐる家具類や繪の道具にとりまかれながら、ただ僅かに、壁にかけられた數枚の繪だけが、いまだに生き生きと、それらの小さな生命を保ちつづけてゐた。
「まあ、こんな繪をお描きになつてゐたんだわ……」彼女は數少ない本が傾いたなりになつて竝んでゐるやうな本棚から、「マリヤへのお告げ」をすぐ見つけ出してから、アトリエの中を半ばこはごは、めづらしさうに眺めまはしてゐた。