伸子はその小さな繪も、他の繪と一しよに何氣なく見すごすやうな風をするのに、いくぶん氣をつけるやうにした。
それから洋子と父とが手に手にカアテンをあけて、いかにも久しぶりのやうに兩方に愉しげにひらかれたフレンチ・ドアから、丁度いまは初夏で、そこいら一めんに花をつけた茂みが、どれがどれだか見分けられないほどに枝と枝とをこんがらかせ、かへつてそんな花の多過ぎるために、又一つにはそれらが珍奇な種類の花ばかりのために、あたりの廢頽した感じを深めてゐるやうな、そんな庭といふよりも花藪にちかいものを、三人三樣のちがつた思ひで見つめ出してゐた。
「繪に描きたいというて、ずゐぶん珍らしい花を方々から取りよせとつたんですよ……」父はそんなことを言ひながら、いま咲いてゐる花のほかにも、まだいろんな、しかしもうちよつと思ひ出せない種類の花がたんとあつたことを浮べながら、どれを見るともなく見入つてゐた。