そのどの一つだつて、とてもいまの自分には着られさうもない事は分かつてゐたが、伸子は何か切ない氣もちで、――むしろ、自分がそんな切ない氣もちになるのをかへつて氣味のいいやうな風に、――そんな何かしら身うちまでひやりとするやうな、つめたい感觸のロオブを、一つ一つ手でいぢつて見てゐた。
「ちよいとこれなら自分にも着られさうだな」ふいとそんなことを思つて、すこし厚手の、ちやうど秋ぐちなんぞには着てみたくなるやうな鼠色のスポオツ・ドレスにいつまでも手をかけてゐると、
「それはあんたにも着られさうぢやないか……しかし、それは二三度手をとほして居つたやうぢやが……」