すべてのものが初夏の、明るい、もう暑いほどな、氣はひを見せてゐるなかで、(彼女には、その唯一の例外のやうに、アトリエの荒れ果てた庭の狂ほしいやうな花の簇がりやうが、ふいと無氣味なやうに浮んだ……)麥畑だけがいかにも冷え冷えとした感じを漂はせてゐる。
それがなんだか、ふいといまの自分自身の姿のやうな氣がした。
――まだ二十五やそこいらで、どんなところへでも嫁いでゆける身なのに、自ら好んで、一生を病氣で過ごすかも知れないやうな弘なんぞの傍に、一生を委ねようとしてゐる自分自身が、自分でもふいと淋しくなつた。