――さつきまであんなに氣の狂つたやうに啼き立ててゐたその小鳥の奴は、彼等がその巣の傍を離れると、もうけろりとしたやうに、再びその生籬に戻つてきて、花や葉のなかを何かせはしさうに、いくぶんまだ不安さうに枝移りしてゐる。
何處からか自轉車の音が近づいてきた。
前方の、兩側から生ひ茂つて道の上方にトンネルをつくつてゐる灌木の中から、首をこごめるやうにしながら、自轉車に乘つた御用聞きが飛び出してきて、そのコッテエヂの前を急カアブしながら、その花ざかりの生籬にも、その花かげにゐる彼と彼女とにも、それから勿論その小鳥の巣にも、氣がつかないやうに通り過ぎていつた。