前方の、兩側から生ひ茂つて道の上方にトンネルをつくつてゐる灌木の中から、首をこごめるやうにしながら、自轉車に乘つた御用聞きが飛び出してきて、そのコッテエヂの前を急カアブしながら、その花ざかりの生籬にも、その花かげにゐる彼と彼女とにも、それから勿論その小鳥の巣にも、氣がつかないやうに通り過ぎていつた。
「こんなところに巣があるなんて、却つて誰も氣がつかないのかも知れないわね……」彼女はそれを見て、すこし安堵したやうにさう言つた。
「…………」彼はどうだか分るもんかと云つたやうな顏を、意地わるさうにわざとして見せるのである。