……私はさるすべりの木がホテルのものとも、前の運送店のものとも、又その筋向うの煙草屋のものともつかず、三方でそれを自分のところのものだと主張してゐる擧句の果、いまだにそんなところに打ち棄てられたままにされてゐるのだと云ふ話を聞いたのは、夏ももう末近くなつてからだつた。
それは私にはいかにもこの村らしい――それまで昔の俤もないやうな廢驛になり果ててゐたのが、近頃急に避暑地として發展し出してゐるこの村らしい插話の一つに思へたものだつた。
……さういふ噂はともかくとして、その日からと云ふもの、一夏ぢゆう、その木は私を魅してゐた。