やがて木の蔭から、籬ごしに、眞つ白な乘馬服をきた少女が快活に馬を驅つてゆく姿が見え出した。
そのうしろからは、いつもきまつて二三人、色とりどりなジヤケツトをきた青年達が自轉車に乘つて、何やら叫びながら、ついて行つた……
そんな風にしてはじめてその木を見つけたその數年前と同じ場所に、恐らく殆ど誰からも氣づかれずに、一夏ぢゆうこつそり咲いてゐるそのホテルの裏のさるすべりの木の傍らに、以前とはすつかり變つて、もう三十にもなつた私は、或る七月の雨上りの夕方、その滑らかな木肌に觸れんばかりにして立つてゐた。