まさかその中にくちなし孃がゐるとは思はなかつたので、私は少年みたいに首まであるジャケットなんぞ着込んで仕事をしてゐましたら、或日、突然みんなで押しかけてきて私に油屋ぢゆうを案内させました。
私はまるで自分の家みたいに、ジャケット姿のまんま、昔殿樣の泊つた上段の間だの、遊女の名なんぞ一ぱい落書してある壁だのを見せて歩きましたが、一番最後に、いま私の使つてゐるお小姓の間に案内したところ、部屋中一ぱい散らかした本だの、書きかけの原稿だのをみんな珍らしがつて、いつまでも見てゐられたのには冷汗を掻きました。
貴方の送つてくれたマロン・グラセがまだ箱の中に二つ三つ殘つてゐるのまで覗き込んでゐたやうでしたが。