いつも同じ弟のモオリス、同じ花、同じ小鳥、同じ神樣の事を、それをまたいつも同じやうに靜かな調子で語つて倦かうとはしなかつた、あのユウジェニイ・ド・ゲランの「日記」にもその點似て、不幸な女の涙ぐましさ、執拗さ、根氣よさそのものの中に、寧ろこの日記を永遠的なものにさせてゐるものがあると云つていいのかも知れません。
――そんな事にどうして私ともあらうものが、今まで氣づかずにゐたのか、この頃になつてつくづくと、何んだか取り返しのつかない事をしたと思ふやうになりました。
が、さういふ矛盾に苦しみながら、一方この仕事が最後に近づけば近づくほど、ますますそれに私を沒頭させ出してゐるのは、この作品の結末において漸つとその手に負へない女主人公が、私のものになり出したやうに見える事です。