それがこんどの火事のおかげで、いまのやうな山小屋住ひを餘儀なくされてゐるうちに、急にそれが書けさうな氣がしてきて、いささか持て餘し氣味だつた例の牧歌の方はその儘にして、そつちを一氣に書いてしまつたやうなわけ。
「雉子日記」などを殘したきりで、去年の冬ぢゆう、雪の林のなかなどにそんなレクヰエムを求めながら一人でさまよつてゐた頃の、いま思ふと自分の痛々しいやうな姿が、この冬のこんな山暮らしをしてゐる自分の裡にそつくりそのまま蘇つてきて、其處においてはじめてその形體を得た、とまあ言へないこともないでせう。
――本當にいろんなものを私は火事で失つたけれど、その代りに思ひがけずそのお蔭でこの一篇のレクヰエムを得られたので、もう失つた何もかもさへ惜しくはない位、――來年の春にでもなつたら、「風立ちぬ」を一まとめにして氣に入つた本にして置きたいものだと、いまからもう樂しみにしてゐます。