おえふが年頃になると、その村の蔦ホテルから、突然、長男の娵にと懇望された。
大體、その蔦ホテルといふのは、もうその頃は村の北方にある森の中にいかにも山のホテルらしいものになつてゐたが、ついその前までは、舊道のなかほどにあつたほんの小さな蔦屋といふ旅籠屋だつた。
――若い頃村を飛び出して、靜岡あたりで傳道師をしてゐた當主の耕作は、このごろ自分の郷里が外人のおほく集つてくる避暑地として拓かれだしてゐるのを知ると、こんな事をして妻子をかかへながらうろうろしてゐるよりはと、自分の家に戻つてきて、そこで日曜學校をひらき、かたはら英語がすこし話せるので通譯などをやつてゐた。