さういふ古人の句さながらに、昔噴き上げられて落ちてきた燒石があちこち草の中に見えてゐるきりの、果てしない裾野がこの村を過ぎる旅びとの足もとまで迫つてきてゐ、見あげると、ついもうそこに火の山の火口がちぎれちぎれに煙を飛ばせてゐる。
さういつた野分のころの一昔前の村のありさまを、老人はさういふ話の折には、いつも好んで思ひ浮べるらしかつた。
その老人が一生のあひだ自分の骨折つてやつてきたすべての事は殆ど忘れ、たださういつた野分の日のありさまだけを自分の前に浮べながら、一と月ほど煩つただけで死んでいつたのは、まださういふ冬の立ち去らないうちだつた。