そんなときには、おえふが出て、故人になつた老人がよく客などに話してゐたのを聞き覺えてゐるまま、それはたぶんあそこのことでせうと、うちでは奉公人どもの墓といつてゐる、寺の墓地とは別になつて、もつと先きの森のなかにある一とむれの古い墓を教へるのだつた。
或日、老母がなんといふこともなしに昔話を思ひ出して、初枝にきかせてやつてゐる。
――昔、この村に古い狐が住んでゐて、それが人知れず毎晩のやうに數年まへ武家に殺害せられた或遊女の墓のほとりをさまよひ、ときどきそつとそれに近づいてはそれを舐めてやつてゐた。