――昔、この村に古い狐が住んでゐて、それが人知れず毎晩のやうに數年まへ武家に殺害せられた或遊女の墓のほとりをさまよひ、ときどきそつとそれに近づいてはそれを舐めてやつてゐた。
村びとがやつとその事を知つて、其處へいつてみると、その墓にもひとりでに深い傷ができてゐたのだつた……
おえふはそばで、そんな話をききながら、自分もはじめてそれを聞いた子供の頃の事、――秋など、森のなかで眞つ紅になつた蔦のからみついてゐる古い小さな墓などを見かけると、きまつてその狐の話を聯想し、何だか遊女といふものをかはいさうにおもつたりした事のあるのを思ひ浮べてゐた。