三 村のひとびと
私はこの山麓に散らばつてゐる、いくつかの風變りな村の、多少ファンタスチックな沿革史みたいなものを、一度書いて見たいと思つてゐます。
今からざつと三四十年前のこと、難工事の末、こんな山の中にもやつと鐡道が通ずるやうになつてから、間もなく一人の外人牧師が偶然ここにやつて來て、この山麓が自分の故郷の霧の多い高原に酷似してゐるのを發見し、ここに掘立小屋のやうなものを建てて一夏を過ごしたことから筆を起すつもりでゐますが、いまではこの村にその牧師の名前をもつた小さな通りまで出來てゐる位です。