……私がそれを教科書として讀まされたときは、丁度、今の自分にはどうしても理解できないやうな焦燥が自分を人生の方へ驅りやつてゐた頃だつたので、そんな地味な物語からは何の感動も受けませんでしたが、今になつて、私は始めて何とも云へない懷しい氣もちで、それを。
讀んだ漠然とした記憶を蘇らせてゐます。
さうして私は、大戰當時のこの「匈奴の森」を背景にして、ドイツ人たちが絶えず何かに怯やかされながら暮らしてゐるところを、――しかし最後まで何の出來事らしいものを起らせずに、たださう云つた不安な雰圍氣のやうなものだけで、そしてその間におのづから一人一人の性格が浮び出てくるやうな風に、一つの小説を書いて見たいとも思つてゐます。