その古いホテルも、――去年まではそんな殘骸をさらしてゐた建物も、今年はすつかり取り拂はれてしまつた。
が、ホテルの裏の塀にくつついて立つてゐる、村で一番美しいさるすべりの木は、それがはつきりとはホテルのものともつかなかつたばつかりに、(本當に何がしあはせになるか分からない)、その儘引つこ拔かれもしないで今年も夏のはじめには眞白い花を咲かせてゐた。
私が今年はじめてその前を通つて見ると、その木の下はいまはもう公然と便利屋の荷車の溜まりになつてゐて、その車の上に、匂のいい白い花がぽたりぽたりと落ちてゐた。