私はひさしぶりにそんな好ましい情景を見かけながら、しかもそれが自分の母親ぐらゐの年恰好の獨逸人らしい老婦人たち――昔の、そのまた昔の少女たち――によつて行はれてゐるのに、すつかり感動しながら、何か自分までもその傍を通つただけで彼女たちの幸福の割前にあづかることの出來さうな感じさへした。
私はけふは何かいいことがあるぞ、それともけふしようと思つたことをするときつと好い結果になるぞ、とそんな好い氣分になつて、村の會堂の方へ近づいてゆくと、一臺の自轉車が柵のうちに乘り棄てられてゐて、會堂の中からヴァイオリンの調子を調べてゐるらしい、幽かな音がそれとなく洩れてゐた。
私はしばらく柵に凭りかかつて、パイプを吹かしながら、それが何か私の幸福の下準備をしてゐて呉れるかのやうに、好い氣になつて聽いてゐた。