しかし彼女にはもう輕々と彈けるやうに見える二三の小曲を殘してゐるだけだつた。
彼女はふとそれが氣になるやうに神經質にヴァイオリンの調子を二三度試み、それからやつと氣がすんだやうな顏つきになつてサラサアテの「ロマンツァ・アンダルウツァ」を彈き出した。
その演奏にすぐ不安を感ずるほど私の耳は敏感ではなかつたが、私の目は、お母さんのピアノの伴奏だけの節になると、その少女がヴァイオリンをちよつと肩から外して、その眞紅のデコルテを何度となく空いてゐる方の手で妙に神經質さうに直してゐるのをなんとなく異樣に見出してゐた。