聽衆は何か呆氣にとられたやうに、それを聞いてゐたが、遂に事情がはつきりすると、半ば音なしく立ち上がりながら、半ばはげしく最後の拍手をし出した。
大女のアルト唄ひだけが一層赧らんだ胸をして出てきてみんなに挨拶したきりだつた。
私は何かその少女のために胸のしめつけられるやうな氣持ちになつて、椅子から離れようとしたとき、急に自分の背後から一人の老紳士がなんだ又かといつたやうにいまいましさうに舌打ちしながら、鳥打帽を手ににぎつたまま、五六人の婦人たちのあとから、樂屋の方へづかづかと近づいてゆくのを認めた。