私はもう少女らしい少女なんぞといふものは少くとも自分にとつては此の世に存在しないのかと考へがちであつたのに、今夜ひさしぶりに一人の少女が見事に少女そのものになつて見せてくれたことに、何よりも、彼女の音樂の妙技以上に感動しながら、すこし雨のふつてゐる中をそれさへかへつて快く感じながら、そしていつものパイプを口に啣へることさへ忘れながら、わが家の方へ歸つて行つた。
その翌日も、私はもうそれが習慣になつたやうに、夕方のいつもの時刻になるとその會堂の前を通り過ぎたが、もう自轉車もそこには乘り棄ててなければ、又、ヴァイオリンのどんなかすかな音ももう洩れては來なかつた。
だが、私はその柵にいつもと同じやうな恰好をして凭れて、パイプを吹かしてゐるだけで、すべてのものを完全に蘇らすことが出來た。