それから店の主人などを相手に他の本へ署名をせられたりしてゐたが、その傍らで、私はそのいただいた本を披らいて、なにげなささうにそのなかの插繪を見たりしてゐた。
しかし私はそのとき心のうちでは、さまざまなことを思ひ出してゐた。
十年ばかり前の、もつとざらざらした紙に印刷され、もつとちぐはぐな插畫の入つてゐた「青猫」の初版が出た當時のこと、私がまだ十九かそこいらでその詩集をはじめて求め得て、黒いマントのなかにその黄いろいクロオスの本をいつも大事さうにかかへて歩いてゐたことなどを、それからそれへと思ひ出してゐた。