十年ばかり前の、もつとざらざらした紙に印刷され、もつとちぐはぐな插畫の入つてゐた「青猫」の初版が出た當時のこと、私がまだ十九かそこいらでその詩集をはじめて求め得て、黒いマントのなかにその黄いろいクロオスの本をいつも大事さうにかかへて歩いてゐたことなどを、それからそれへと思ひ出してゐた。
さうしてその頃の自分にとつては、何處かしらない、遠い山脈にとりかこまれた、廣い平野のまんなかのちひさな町で孤獨な生活をしてゐるその詩人が、自分なんぞからははるかに遠いものとして、それゆゑ一層切なく、思慕されない日とてはなかつたのだ……
さういふことまで思ひ出せば思ひ出すほど、私はそのとき、その詩人の傍らにあつて、いかにも感慨深げに、默つたまま、その「青猫」の新らしい 〔e'dition〕 を手にとつて見てゐた。