平安朝時代の美しい女盜を中心的人物とした「偸盜」は、メリメの「カルメン」を想起させる。
又、福を轉じて禍とする縁起の惡い聖母を描いた「黒衣聖母」はメリメの「イルのヴイナス」を、それから「或戀愛小説」はメリメの「神父オオバン」を、それから「湖南の扇」はメリメの「コロンバ」を――彼はこの小説を書くために何度も「コロンバ」を讀み返したと僕に言つた事さへあるのだ。
この告白嫌ひなメリメと同一の氣質を負はされてゐる彼は、それにも拘らず、晩年には、あの告白好きなストリンドべリイに遮二無二接近しようと努力した。