讀者を作者と同じ場所で見物させて置く方がどうもいい、芥川君のやうな一行々々苦心して行く人の物なら、讀者はその道筋のうまさを味はつて行く方がよく、さうしなければ勿體ない話だといふやうな意味のことを言つたさうである。
それを聞いて、芥川氏は素直に受け入れて、「藝術といふものが本當に分つてゐないんです」と答へた。
芥川氏があらゆる物語的なものから彼自身を解放し、最も詩に近い小説――彼の謂ふところの「筋のない小説」に強い情熱を持ち出した變化の道程を見究めれば、そこにはかういふ志賀氏との對話が或影響を與へてゐる事は見逃がせないだらう。