それまでも彼の作品の内部に常にわだかまつてゐた黒いものは、既に僕の見てゐたものであるが、それにも拘らず彼の作品の外部は華やかでさへあつたのに、(それ故一種の「華麗なる寂しさ」が彼の作品を掩うてゐたのだ)、その頃から彼の作品はその内部の黒いものを外側にまで露骨に現はしはじめたのである。
彼がその病氣と悔恨と衰弱との間に苦しく書き上げられた「點鬼簿」(大正十五年)を、その時期以前に書かれた「少年」(大正十三年)に比較して見よ。
「少年」の一章は、海岸でバケツの錆に似た代赭色の海を見てきてから繪本の海の色を青く塗らずに代赭色に彩つた少年を描いてゐる。