が、「點鬼簿」以後、「彼」「玄鶴山房」「蜃氣樓」「齒車」などが發表される毎にそれを讀んで行くと、それらの作品の上にはいづれにも「點鬼薄」の持つてゐた暗鬱さが掩うてゐるが、それに慣れるに從つて、僕はその暗鬱さに親しみをさへ感じ出した。
と言ふのは、それらの作品がいかに暗鬱な色を帶びてゐるにもせよ、そこに底深く漂つてゐる一味の甘さ(sweetness)が感じられたからである。
恐らくは彼が彼の最後に強く感じてゐたところの暗い死の魅力もかういふ「苦甘い」ものであり、彼はさういふ魅力あるものにこそ彼の貴重な全部を投げ出すだけの大いなる熱情と勇氣とを持つことが出來たのであらう。