肺結核のためにもう死ぬばかりになつてゐる玄鶴、腰拔けの意地のわるい老妻、さういふ兩親にいつも控へ目に仕へてゐる平凡な息子夫婦と彼等の腕白盛りの子供、以前玄鶴の家の女中だつた、そしてその後彼の妾になつてゐたいぢらしいお芳と、彼女と玄鶴の間の小さい子供、それに職業故に冷酷になつてゐる看護婦、――かういふ多くの人達によつて營まれてゐる或暗澹たる一家。
さういふ一家族全體が實に堅固に描き出されてゐる。
今日までの日本の小説の間にも、さういふ一家族全體を取扱つたものも無くはなかつたのであるが、僕の知つてゐる限りでは、それらの全部は唯、さういふ一家を築き上げてゐる人々の間の心理的葛藤とか、さういふ一家族の雰圍氣とか、さういふ一家族の中の出來事とか、さういふものだけを描いたのに、(もつと正確に言へば copy したのに)過ぎなかつたのである。