そして若し事物が(とマルテが私に言ひますには)――若し事物が、君が君の興味の僅少をもつてすら他の物に氣をとられてゐるのを見拔くが早いか、彼は閉ぢこもつてしまふ。
彼は多分君に何か一言ぐらゐは云ひつけるだらう、ほんのちよつと親しげな小さな合圖ぐらゐは君にするだらう、(それだけでも既に、口のうまい謬見の方へ始終引張られがちな人間どもの間に閉ぢこめられてゐる人間にとつては、大したことだけれど)……が、それは、彼の心を君に與へるとか、彼の忍耐づよい存在、彼をすこぶる星座に似させてゐるところのあの天體的なやさしい恆久性を、君に托することは、拒絶するだらう!
一事物が君に語るためには、君は或る一定の時間、それをこの世に存在してゐる唯一の事物として、獨自の外貌として、把握してゐなければならない。