さうやつて、毎晩、夜ふけまで小さなホテルの片隅で孜々として仕事をしてゐたリルケの部屋から洩れてゐたあかりだつたのだ、その頃同じホテルに住んでゐた、もう一人の詩人が毎晩それとは知らずにそのあかりを見ながら、なんといふ佗びしいランプの光だらうと思つてゐたのは。
――後年その囘想録のなかで、もう一人の詩人はそれからずつと後になつてはじめてそれが誰の部屋だつたかを知り、そしてそのやうに孤獨に堪へてゐた詩人が、そんな夜ふけの佗びしいランプの光を通して、だんだんさういふ孤獨の偉大さを解するやうになつてきた自分にどのやうに慰めを與へてくれてゐるだらうといふやうな事を書いてゐる。
「マルテの手記」はその冬巴里のその客舍で一氣に仕上げられたらしい。