さうやつて少年の日に「更級日記」を讀み、さういふ古い日本の女のひとりに人知れぬ思慕を寄せてゐたのは、しかし私の心の一番奧深くでだつた。
私は誰にもその思慕については自分から言ひ出さうとはしなかつた。
只一度、私は何かの話のついでに佐藤春夫さんの前でちよつとその事に觸れたが、そのとき佐藤さんもこの日記を大へん好んでゐられることを知ると、反つて私は何んだか氣まりの惡いやうな氣がして自分の思つてゐることを餘計しどろもどろにしか言へなかつた事をいまだに覺えてゐる。
さうやつて少年の日に「更級日記」を讀み、さういふ古い日本の女のひとりに人知れぬ思慕を寄せてゐたのは、しかし私の心の一番奧深くでだつた。
私は誰にもその思慕については自分から言ひ出さうとはしなかつた。
只一度、私は何かの話のついでに佐藤春夫さんの前でちよつとその事に觸れたが、そのとき佐藤さんもこの日記を大へん好んでゐられることを知ると、反つて私は何んだか氣まりの惡いやうな氣がして自分の思つてゐることを餘計しどろもどろにしか言へなかつた事をいまだに覺えてゐる。